マイクロサービスアーキテクチャとは？メリット・利用目的・必要技術を解説
ITエンジニア界隈ではマイクロサービスアーキテクチャという聞きなれない言葉を耳にする機会が増えました。
今までにない画期的な開発手法のひとつで、変化の激しい外的環境にも迅速に対応できる利点から開発シーンで注目を集めています。
自身の市場価値の向上を狙うITエンジニアはこの機会にMSAの仕組みや活用シーンを学んでみると効果的です。
今回はマイクロサービスアーキテクチャのメリットや利用目的、必要な技術を解説します。新しい技術にキャッチアップして自己鍛錬に励む意欲が高い方の参考になれば幸いです。
目次
マイクロサービスアーキテクチャとは
マイクロサービスアーキテクチャ（Microservices Architecture）は複数の小さなサービスを組み合わせて大規模なシステムを構築する開発手法を指します。
構造的に分離することでデプロイやスケーリングを機能単位で実現できる利点があります。一つひとつのサービスは独立して単一の機能を担当し、ほかのサービスとはAPIを通して連携する仕様です。
マイクロサービスアーキテクチャの採用によって問題ない部分のみ稼働を続けて、インシデントが生じた一部の機能を改修できます。
またAPIの仕様に則れば、異なるセグメントを別の言語でコーディングする構成を実現できます。
マイクロサービスアーキテクチャはすべての機能をまとめてシステムを構築するモノリシックアーキテクチャと比較して、柔軟かつ保守性に優れた開発手法です。
マイクロサービスアーキテクチャが注目を集めている理由
マイクロサービスアーキテクチャが注目を集める理由には開発スピードや保守性の向上、クラウド活用との親和性が挙げられます。
改修箇所を特定して部分的にブラッシュアップできるため、システム刷新の必要性が生じたときに迅速なアップデートが可能です。
またコロナ禍の到来でデジタル化のニーズが急増したように、日々移り変わるニーズの変化にキャッチアップできる柔軟性の高さも、企業が熱視線を注ぐ理由です。
またAWS・Azure・GCPなどのクラウドインフラはマイクロサービスアーキテクチャの構成が採用されています。
スケーラビリティの容易さかつ必要な機能を必要なだけデプロイできる管理面の利点から、オンプレミスからクラウドインフラに切り替える企業は少なくありません。
現在はIT業界全体でマイクロサービスアーキテクチャのニーズが高まりつつある状況です。学習を始める時期として絶好のタイミングといえるでしょう。
ほかの開発方法との違い
マイクロサービスアーキテクチャとよく比較されるその他の開発方法との違いは次のとおりです。
モノリシックアーキテクチャ：すべての機能をひとつにまとめて実装する手法
SOA（サービス志向アーキテクチャ）：個別の機能単位で開発するものの独立性が低い手法
マイクロサービスアーキテクチャではユーザー管理・データベース・決済・データ管理機能を個別に実装後、API連携します。
一方モノリシックアーキテクチャは上記のビジネスロジックを単一のパッケージでひとまとめにして開発する手法です。SOAは各サービスを個別に扱う点ではマイクロサービスアーキテクチャと共通するものの連携の強度が異なります。
API連携ではなく、エンタープライズ・サービス・バス（ESP）と呼ばれる共通基盤を通じて各々の機能を一元的に接続します。
基本的にSOAではESPと連携しないビジネスロジックはなく、結果的に各コンポーネントの独立性は低下を余儀なくされるのです。
マイクロサービスアーキテクチャは単一の機能にインシデントが発生しても、ほかの機能には影響を及ぼさないメリットがあります。
一方SOAではESPにウイルスの侵入やコーディングのミスがみられると、システム全体のパフォーマンスの悪化を招く可能性があります。
マイクロサービスアーキテクチャのメリット
マイクロサービスアーキテクチャの導入に伴うメリットは多種多様で、企業にとって魅力的な選択肢のひとつです。
開発スピードの向上や個別の機能ごとの柔軟な開発のほか、セキュリティ対策や再利用の容易さ、コスト優位性が注目されています。MSAが開発シーンにもたらす影響の大きさを詳しく解説します。
マイクロサービスごとに異なる言語での開発ができる
データベースはPython、ユーザー管理はJavaというように同一システム間で開発言語を変えられる特徴があります。
マイクロサービスアーキテクチャは各機能の独立性が担保され、ある部分の開発・更新がほかの箇所に影響を与えません。したがって単一のシステム内で別々の開発言語やフレームワークを使い分ける実装が可能です。
結びつきが発生するモノリシックアーキテクチャやSOAでは依存関係を考慮した結果、適切な技術ポートフォリオを構築できない場合があります。
マイクロサービスアーキテクチャは個々の機能に合わせた技術を組み合わせることで、サービス間のしがらみから離れてパフォーマンスの改善が狙えます。
開発スピードを向上できる
開発や改修時の実装スピードを著しく向上させ、迅速なデプロイが期待できます。すべての機能が密接に関連しているとある箇所の改修が本来なら無関係のほかの部分に影響を与えるため、全体の刷新が必要となるケースが少なくありません。
修正箇所が増え、コードが複雑さを増して改修の完了までに相当な時間を要します。一方それぞれが分離したマイクロサービスアーキテクチャは、修正の影響を極力小さく抑えられます。
バグが発生した特定の部位に限定して作業を進めればよいため、開発期間の短縮が実現します。
機能追加・変更がしやすい
マイクロサービスアーキテクチャは、ニーズの変化や新技術の発掘による機能の追加や変更にも容易に対応できます。システムの一部をアップデートしたい場合、モノリシックアーキテクチャでは連携・関連するサービスの特定から始めなくてはいけません。
一方機能単位で独立したマイクロサービスアーキテクチャはスケールアップの作業に集中できるため、対応範囲が限定されます。あたかも積み木のブロックを入れ替えるようにスムーズに刷新する様は爽快かつ感動的です。
修正時のシステム全体への影響が小さい
マイクロサービスアーキテクチャが真価を発揮するタイミングは修正や改修時です。例えばデプロイに伴い、システム全体を停止させる必要性から解放されます。
モノリシックアーキテクチャの場合、対象のアプリケーションの稼働をすべて中断して、コードを丸ごと入れ替えてデプロイしなくてはいけません。
マイクロサービスアーキテクチャでは改修箇所に関わる部分のみ止めて、それ以外の部分はユーザーが利用できる状態に維持できます。
新しい機能やサービスをデプロイする際に既存のシステムに与える影響を極力小さくできる保守性に優れた開発手法です。
障害の被害を抑えやすい
問題が生じたときの耐障害性と可用性の高さもマイクロサービスアーキテクチャの特筆すべき点です。各機能が分離・独立した構造のため、障害の原因となったサービスを切り離して修正作業を実施できます。
迅速な回復に効果を発揮するほか、ウイルスや危険なソフトウェアの悪影響を抑えられるのは利点です。
さらにマイクロサービスアーキテクチャでは、障害の検出や復旧に特化したサービスを利用できる場合があります。
セキュリティ対策がしやすい
階層化されたセキュリティ対策を通じて、システムの安全性を向上できるメリットがあります。データベースやユーザー管理など情報漏洩のリスクがある機能に特化したアプローチが可能です。
例えば強固な認証体制・コンテナの搭載・優先順位付け・mTLS プロトコルによる通信の保護が挙げられます。
サービス同士の暗号化の際にAPIゲートウェイを単位として、外部からの侵入を遮断する強固なビジネスロジックやドメインルールを採用できます。
ひとつのシステム内で通信プロトコルを使い分けてセキュリティ面の強化を図ることは、サービス同士の結合がないマイクロサービスアーキテクチャの利点です。
問題発生時の修復時間を短縮できる
問題の発生時に多大な修正時間が生じるリスクから解放され、復旧までスピーディーです。不具合の箇所のみ作業の対象にする個別のデプロイ体制は、マイクロサービスアーキテクチャの明確な強みです。
従来の開発ではシステムの一部に問題が見つかった場合、改修プロセス全体のやり直しが必要でした。
サービス間の独立性が高いマイクロサービスを活用すると全体を対象とせず、特定の部分のみのコーディング・テスト・リリースで済みます。
既存のコードを再利用できる
マイクロサービスアーキテクチャは、別のシステムで特定の機能を実装したいニーズが生じた場合のコードの再利用性もメリットです。
具体的にはプログラムの一部をコピー＆ペーストで付け替えることが可能です。しかしモノリシックアーキテクチャのロジックを搭載したプロジェクトでは既存のコードとの依存関係を整理したうえで該当部分の抽出が可能かという判断が求められます。
プログラムの再利用性は機能単位で細分化されたシステム構成だからこそ実現可能です。新機能の追加や改修の必要性が生じたとき、ゼロからコードを記述する手間がなくなり開発の効率が大きく向上します。
コストの削減がしやすい
機能単位で細分化したシステム構成は開発の無駄を防ぎ、余計なコストの削減につながります。スケールアップの対象を多くのリソースを必要とするコンポーネントに絞り、そのほかの部分は手を付けずにいられるためです。
開発の単位が小さくなるだけではなく、テストやデプロイのリソースを削減して全体的なコスト負担を下げられます。したがってマイクロサービスアーキテクチャの導入は費用対効果に優れたシステムを実現する有効な手段です。
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マイクロサービスアーキテクチャのデメリットや課題
優れた開発手法のマイクロサービスアーキテクチャですが、劣った部分もゼロではありません。
具体的には設計難易度の高さ・運用や管理の複雑さ・データの整合性の保ちにくさ・インシデントの原因特定の難しさが挙げられます。マイクロサービスアーキテクチャのデメリットや課題は次のとおりです。
システムの設計の難易度が高い
細かいサービスを連結してひとつのサービスを組み合わせる仕様上の特性から、設計の難易度が高めです。スケーラビリティに優れ、保守性に富んだシステムを構築するにはさまざまな技術的な知見が求められます。
採用技術の自由度が高い反面、長年の経験や熟練のスキルをもつ人材がいないとアーキテクチャの構築が難しいといえます。
例えばビジネスドメインの理解が曖昧なままマイクロサービスアーキテクチャの実装を進めると、機能同士の境界が不明瞭になる事態を招きやすいでしょう。
運用や管理が複雑化しやすい
構成が複雑なシステムは、設計だけでなくデプロイ後の運用や管理が難しい傾向にあります。パフォーマンスの監視や管理に、余計な人材や専門ツールの契約が必要なケースも珍しくありません。
APIの連携がサービスの基礎となる場合、多量の通信トラフィックが発生します。データ容量や同時稼働のサービスが増えた結果、ネットワークの遅延を引き起こすリスクが高くなります。
バグやトラブルの防止や被害の拡大に備えるためには、運用や管理にリソースを投じなくてはいけません。
データの整合性を保ちにくい
マイクロサービスアーキテクチャはトランザクションを通じてデータの整合性を保ちにくい事情があります。一つひとつの構成単位が異なるデータベースを持つことが原因です。
複数のサービスにまたがるトランザクションが発生した際、ロールバックによる変更の取り消しが困難になる可能性があります。複雑なシステム構成はデータベース単位の重複や不整合のリスクを高めます。
エラーの原因の特定に時間がかかる
不具合やセキュリティインシデントが発生したときに、原因の特定が迅速に進まない可能性があります。内部構成が複雑なため脆弱性が生じた箇所の発見が難しくなるためです。
開発やテストを行う単位を細分化せざるを得ず、確認の作業量が肥大化するリスクがあります。予測が外れた場合、なかなか不具合の原因がわからず復旧に時間がかかるという致命的な局面を招きかねません。
マイクロサービスアーキテクチャの利用目的
マイクロサービスアーキテクチャの導入に適した場面は次のとおりです。
- 大規模開発の柔軟性を確保したいとき
- チーム分業制を強化したいとき
- リリースサイクルを短縮化したいとき
機能単位で開発を細分化できるため、大規模なシステムの構築に適しています。開発チームの業務領域をとり決める際にもスコープの範囲を特定しやすく、ほかにも迅速なアップデートが求められる場面と相性がよい開発手法です。
またマイクロサービスアーキテクチャは多様な機能やトラフィックの変動性、機能追加の可能性からECサイトの実装に適しているといわれます。柔軟性・スケーラビリティ・効率性・安全性のすべてを満たした高パフォーマンスのシステム構築が可能です。
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マイクロサービスアーキテクチャに必要な技術
マイクロサービスアーキテクチャの開発に必要な知識は、モノリシックなパターンとは差異があります。
例えばAPI・コンテナ・サービスメッシュ・DevOps・アジャイル開発の知見が重要です。マイクロサービスアーキテクチャの案件に携わる機会がほしいITエンジニアに向けて、習得の優先順位が高い技術を紹介します。
API
異なるサービス同士でデータを通信する際のインターフェースとなる、APIの知識が欠かせません。マイクロサービスアーキテクチャにおけるAPIは、各サービスを接続する架け橋のような存在です。
Web通信の場合、REST APIやSOAP（Simple Object Access Protocol）が頻繁に使われます。サービスの種類や個別の仕様を熟知することは、
プロジェクトの要件に適合したシステムの導入に欠かせないポイントです。
コンテナ
コンテナは特定のアプリケーションの実行に必要な開発環境をパッケージ化したもので、ライブラリやミドルウェアが単一にまとまっています。
マイクロサービスアーキテクチャでは、各機能やサービスの単位をコンテナとして扱うケースが一般的です。
プロジェクトに携わるITエンジニアはコンテナ単位で開発し、更新や修正の機会に応じてコンテナを入れ替えればよく、効率性の向上が期待できます。
学ぶべき事柄として主要ツールのDocker（ドッカー）、オーケストレーションツールのKubernetes（クバネテス）の操作方法が挙げられます。
サービスメッシュ
サービスメッシュはサービス間の通信を監視・管理して、セキュリティの向上や負荷分散の効果をもたらす技術です。
大規模で複雑なシステムの場合、個々のコンテナにコードを仕込む方式では保守性の低下を招きかねません。網の目のごとく各サービスの通信をつなぐサービスメッシュが必要です。
具体的にはサイドカーと呼ばれるプロキシを付加して、システム内の通信を一元的に行う手法が効果的です。上述したKubernetesには基礎的なサービスメッシュ機能が組み込まれています。
またインフラ環境に依存せず、独自のプロキシを利用して通信を管理するIstioやLinkerdなどのサービスもあります。
DevOps
マイクロサービスアーキテクチャの実装には、開発（Development）と運用（Operations）を統合してプロジェクトを進めるDevOps（デブオプス）が採用されるケースが多数です。
開発エンジニアと運用エンジニアが相互に連携する開発体制を敷くため、開発スピードの向上および問題の迅速な発見が可能です。はじめのデプロイにいたる期間の短縮のほか、リリース後に発覚したインシデントの原因究明にも役立ちます。
DevOpsは開発技術ではなく、開発・運用を一元化する文化や手法を表します。例えば異なるサービス間でログを共有し、機能同士の連結を強める仕組みの採用が一例です。
アジャイル開発
アジャイル開発は設計・コーディング・テスト・リリースを小さなサービス単位で行うことでプロジェクトの期間短縮を図る手法です。
ニーズの急激な変化に柔軟に対応しやすい方法のため、マイクロサービスアーキテクチャと親和性が高いといえます。
アジャイル開発の理解を深めるためには主要なフレームワークのスクラムを学ぶ必要があります。まずは基本書やインターネットに公開された無料資料を読んで、基礎的な知識を習得する試みがおすすめです。
次にアジャイル開発やスクラムの専門書を読破し、あわせて契約・品質保証・リーン開発など関連知識に手を広げていくと効果的です。
マイクロサービスアーキテクチャを導入する際の注意点
マイクロサービスアーキテクチャ導入時の失敗を防ぐための注意点を解説します。特にミスが発生しやすい局面は小規模から大規模への移行、設計方針の策定、運用体制の確保です。
システム構成が複雑になりがちなため、企画・設計の段階で抜け漏れが生じやすい傾向にあります。開発を開始してからミスに気付くという手戻りの発生が不安材料です。
元々規模が小さく今以上にサービスの切り分けが難しい場合、開発チームや構成人員に専門的な知見がない場合、従来のモノリシックのアプローチが適している可能性があります。
またあえて冗長性を確保し、複数のサービスを同時に稼働させる手法や、本番環境に順次切り替えるローリングアップデートに対する理解が必要です。
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結論からいうとマイクロサービスアーキテクチャの案件は増加傾向にあるため、将来的に価値ある知識といって過言ではありません。
大きな理由はオンプレミスからの移行や開発スピードのニーズの向上、クラウドインフラやDevOpsの需要や関連ツールの増加にあります。
ゼロからの切り替えは難しいものの既存のモノリシックな部分を残したまま、一部をマイクロサービスアーキテクチャで構成する手法は十分実用的です。
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