SESの引き抜きは違法?トラブルに発展しやすいケースや断りたい場合の対処法を解説

SES(システムエンジニアリングサービス)業界では、クライアント企業がSES企業から派遣されているエンジニアを直接雇用しようとする引き抜きが少なからず発生しています。
こうした引き抜きは、エンジニア個人にとってはキャリアアップのチャンスとなる一方で、SES企業との関係悪化や法的トラブルに発展するリスクもあるので注意が必要です。
本記事ではSESの引き抜きが起こる背景や法的な問題点、トラブルに発展しやすいケース、そして引き抜きを断りたい場合の対処法について詳しく解説します。
引き抜きの提案を受けたエンジニアや、引き抜きによるトラブルを防ぎたいSES企業の方々にとって参考になる情報をお届けします。
目次
SESの引き抜きはなぜ起こる?

SES業界では、なぜクライアント企業からの引き抜きが頻繁に起こるのでしょうか。その背景には、SES業界特有の構造や企業のニーズが関係しています。
主な理由を見ていきましょう。
クライアント企業とエンジニアの距離が近いため
SESの現場では、派遣されたエンジニアはクライアント企業の社員と同じオフィスで働き、日々コミュニケーションを取りながら業務を進めることが一般的です。このような環境では、クライアント企業の管理者やリーダーがSESエンジニアの技術力や人柄を直接評価する機会が多くあります。
日常的な業務を通じた信頼関係の構築が行われるため、クライアント企業側としてはこの方なら自社に合うだろうという判断がしやすくなります。
特に長期間にわたって同じプロジェクトに参画している場合、エンジニアはクライアント企業の業務フローや社内文化にも馴染んでいるため、引き抜きの対象になりやすいです。
優秀な人材を獲得しやすいため

クライアント企業にとって、すでに自社のプロジェクトで豊富な経験をもっているSESエンジニアは、能力や適性が実証済みの大切な人材です。通常の採用活動における面接や適性検査だけでは、候補者の実際の業務遂行能力を正確に把握することが難しいです。
すでに自社のプロジェクトで活躍しているエンジニアであれば、その技術力やチームへの適応力、コミュニケーション能力などを実際の業務を通じて評価できているでしょう。
このため、クライアント企業はリスクをなるべく抑えながら優秀な人材を獲得できる方法として、SESエンジニアの引き抜きを選択することがあります。
エンジニア側が断りにくいケースが多いため
SESエンジニアにとって、クライアント企業からの直接雇用の打診は、単なる転職話以上の重みを持つことがあります。日々一緒に働いている相手からの誘いであるため、人間関係を考慮して断りにくい心理的な圧力が生じやすくなります。
特に、プロジェクトリーダーや部門長など、普段から業務指示を受ける立場の人物から引き抜きの提案があった場合、断ったら今後の評価に影響するのではないかという不安から、考慮せざるを得ないケースも少なくありません。
オファーにかかる費用を削減できるため

企業が通常の採用活動を行う場合、求人広告の掲載費用や採用サイトの運営費、人材紹介会社への手数料など相当額のコストが発生します。
特に専門性の高いITエンジニアの採用では、人材紹介会社を利用すると年収の30%程度が相場となる紹介手数料が必要になることも珍しくありません。
一方、SESエンジニアの引き抜きでは、こうした採用コストを大幅に削減できるメリットがあります。すでに関係性が構築されているエンジニアに直接オファーするだけで済むため、採用活動にかかる時間や費用を抑えられます。
人材育成にかかる時間や費用を削減できるため
新たにオファーしたエンジニアが自社のシステムや業務に慣れるまでには、一般的に数ヶ月の研修期間が必要です。この間、十分なパフォーマンスを発揮できないことも多く、企業にとっては生産性の低下や教育コストの増加といった負担が生じます。
しかし、SESエンジニアの引き抜きでは、すでに業務内容や社内システムに精通している人材をオファーできるため、教育コストや適応期間を大幅に短縮できます。引き抜いたエンジニアはスムーズに業務に取り組めるため、企業にとっては即戦力としての価値が高いです。
SESのクライアント企業からの引き抜きは違法?

引き抜きの話を受けた際に気になるのは、法的な問題があるかどうかではないでしょうか。
結論からいえば、引き抜き自体は必ずしも違法ではありませんが、状況によっては法的なトラブルに発展する可能性もあります。
法律的には問題ない
エンジニア個人の転職の自由は憲法で保障された権利であり、基本的にはSESエンジニアがクライアント企業からのオファーを受けて転職すること自体は法律違反にはなりません。労働者には職業選択の自由があり、よりよい条件の職場に移ることは当然の権利です。
ただし、SES契約のなかで引き抜き禁止条項(競業避止義務)が含まれている場合は、その契約内容に抵触する可能性があります。引き抜き禁止条項の内容は、以下のようなものが一般的です。
- SES契約期間中および契約終了後一定期間(通常6ヶ月〜1年)、クライアント企業がSESエンジニアを直接雇用しない
- 直接雇用する場合は、SES企業に対して一定の転籍料(紹介料)を支払う
- SESエンジニアに対して転職の勧誘を行わない
こうした条項に違反した場合、契約違反として損害賠償の対象となる可能性はありますが、それでも刑事罰の対象となる違法行為ではないケースがほとんどです。
訴訟に発展するケースもある
引き抜き自体は違法ではないものの、その方法や規模によっては民事訴訟に発展するケースも少なくありません。特に以下のような場合は、SES企業が損害賠償を求めて法的措置を取ることがあります。
- 契約違反:前述の引き抜き禁止条項に明確に違反している場合
- 営業妨害:組織的かつ計画的にSESエンジニアを大量に引き抜き、SES企業の事業継続を困難にさせるような行為
実際、過去には大手SES企業がクライアント企業を相手取って訴訟を起こし、損害賠償金が認められたケースもあります。
特にSES企業にとって優秀なエンジニアは重要な資産であり、その流出は事業に大きな影響を与えるため、深刻な問題としてとらえられています。
SESの引き抜きでトラブルに発展しやすいケース

引き抜きがトラブルに発展しやすいケースには、主に以下のようなパターンがあります。これらの状況を知っておくことで、リスクを回避するための判断材料となるでしょう。
クライアント企業が一度に大量のエンジニアを引き抜いた場合
SES企業にとって、一度に複数のエンジニアが引き抜かれることは大きな痛手です。特に同一プロジェクトに関わるエンジニアが集団で引き抜かれた場合、そのプロジェクトの継続が困難になり、クライアントとの契約自体が危機に瀕することもあります。
例えば、あるプロジェクトに5名のSESエンジニアが参画している状況があるとします。そのうち3名が同時にクライアント企業に転職してしまうと、残りの2名だけでは業務をカバーできなくなる恐れがあるというわけです。
SES企業としては急遽代替要員を確保しなければならず、人材確保のコストや引き継ぎの負担が一気に発生します。このような大量引き抜きは、SES企業の事業継続を脅かす行為として営業妨害と見なされることがあるので注意が必要です。
クライアント企業が計画的に引き抜きを行った場合
クライアント企業側が初めからSESエンジニアの引き抜きを目的としてSES契約を結んでいるようなケースも、トラブルに発展しやすいパターンです。
これは一種の試用期間として悪用するもので、以下のような流れで行われることがあります。
- まずSES契約を結び、エンジニアのスキルや人柄を評価する
- 能力が高いと判断したエンジニアだけを選別して直接雇用のオファーを出す
- オファーを断られた場合はスキルが足りないなどの理由で契約を打ち切る
このような行為は、SES契約の本来の目的から外れた脱法的な採用活動と見なされ、SES企業との信頼関係を大きく損なう行為です。
特に、はじめからこのような意図を持ってSES契約を結んでいた証拠が発見された場合、法的責任を問われる可能性もあります。
クライアント企業に引き抜かれた場合のメリット

引き抜きのリスクだけでなく、メリットについても理解しておくことが、冷静な判断を下すために重要です。クライアント企業に引き抜かれることで得られる可能性のあるメリットを見ていきましょう。
収入がアップする可能性がある
SESエンジニアがクライアント企業に直接雇用されるメリットとして、大きいのは収入アップの可能性です。
SES契約では、エンジニアの単価(クライアント企業がSES企業に支払う金額)とエンジニア本人の給与の間には、SES企業のマージンが発生します。このマージン率は企業によって異なりますが、20〜50%程度が一般的とされています。
クライアント企業への直接雇用では、このマージン分を原資として、より高い給与を提示されることがほとんどです。特に高いスキルを持つエンジニア程、SES契約での単価も高く設定されているため、直接雇用での収入アップ幅も大きくなる傾向があります。
キャリアアップできる可能性がある
SESエンジニアにとって、クライアント企業への転職はキャリアアップの好機となることもあります。直接雇用になることで、以下のようなキャリアアップの可能性が広がります。
- より上流工程への参画:要件定義や設計段階から関われる機会が増える
- マネジメント経験:チームリーダーやプロジェクトマネージャーとしての役割を任される可能性がある
- 専門性の深化:長期的な視点で特定分野のスペシャリストとして育成される
- 社内システムへの深い関与:システム全体の把握や改善提案など、より主体的な役割を担える
また、大手企業や成長企業に直接雇用されることで、自身のキャリアにおけるブランド価値が高まるというメリットもあります。
私たちテクニケーションでは、案件の単価に応じて収入が決まる単価給与連動制を採用しており、実力がある方程高収入を得やすい仕組みがあります。そのなかで会社間の単価を事前に開示しているため、自分の市場価値を正しく把握したうえで、納得感のある報酬を得ることが可能です。
さらに、チーム制を採用して各案件のリーダーを目指すこともできるため、キャリアアップを目指すこともできます。
年収アップやキャリア形成につながる環境をお探しの方は、ぜひ一度テクニケーションのカジュアル面談でご相談ください。
クライアント企業に引き抜かれた場合のデメリット

引き抜きのメリットがある一方で、見落としがちなデメリットも存在します。転職を検討する際には、これらのデメリットも冷静に考慮することが重要です。
引き抜きの事実を周囲に隠さなくてはならない
クライアント企業への転職が決まった場合、その事実を元のSES企業のメンバーに対して隠さなければならない状況に直面することがあります。特に引き抜き禁止条項に違反するようなケースでは、クライアント企業から転職の事実は内密にと要請されることも少なくありません。
このような秘密主義的な対応は、長年一緒に働いてきた同僚との関係において、罪悪感や居心地の悪さを生み出します。なぜ突然辞めるのか、次の職場はどこなのかといった質問に対して曖昧な回答や嘘をつかなければならない状況は、精神的なストレスとなります。
元のSES企業のエンジニアとの人間関係が悪くなる
引き抜きによる転職は、元のSES企業の同僚エンジニアとの関係悪化につながることがあります。特に以下のような状況では、人間関係のトラブルが生じやすいです。
- 引き抜かれたエンジニアが残ったエンジニアより好条件で転職した場合
- 転職によってプロジェクトの負担が残ったエンジニアに集中してしまう場合
- 元SES企業の上司や先輩が引き抜き行為を裏切りととらえた場合
特に日本のIT業界では、人的ネットワークの重要性も高く、業界内での人間関係は将来のキャリアに大きな影響を与えます。
必ずキャリアアップできるとは限らない
クライアント企業からの引き抜きは、一見するとキャリアアップのチャンスに見えますが、必ずしも期待通りの結果にならないケースもあります。以下のようなリスクを考慮する必要あるでしょう。
- ポジションの固定化:特定の技術やスキルだけを期待され、新しい分野にチャレンジする機会が限られる
- 企業文化との不適合:外部から見ていた企業イメージと、実際の企業文化にギャップを感じる
- 期待値のミスマッチ:引き抜きの際に提示された役割や裁量が、実際に入社してみると異なる
特に引き抜きという特殊な入社経路を通じて入社した場合、通常のオファープロセスとは異なります。
会社全体の業務フローや評価制度、キャリアパスについての理解が不足したまま入社することになるため、想定外の状況に直面するリスクが高いです。
キャリアアップは、すべての方に同じペースで訪れるものではありません。スキルや経験・希望する働き方・案件との相性など、さまざまな要素が影響します。
私たちテクニケーションでは、エンジニア一人ひとりが自分のペースで成長できるよう、環境づくりを大切にしています。
会社間単価を開示する透明性の高い制度・自分の志向に合った案件を選べる仕組み・現場での課題や目標に寄り添うフォロー体制といった取り組みを通じて、着実なステップアップを支援しています。
「将来の方向性が定まらない」「今の環境で本当に成長できるのか不安」と感じている方は、ぜひ一度テクニケーションにご相談ください。あなたのキャリアにとって、何がベストかを一緒に考えていきましょう。
クライアント企業からの引き抜きを断りたい場合の対処法

引き抜きのオファーを断りたい場合は、以下のような対処法が効果的です。
- 現在のキャリアプランを理由にする:現在の会社での中長期的なキャリアプランがあり、それを優先したい
- 契約上の制約を理由にする:契約上の縛りがあるため、すぐに転職することは難しい
- 現状への満足を伝える:現在の職場環境や待遇に満足している
- 時期の問題として保留する:今このタイミングでは難しいと時期の問題として保留する
- SES企業の上司に相談する:信頼できる上司がいる場合は、状況を相談して対応のアドバイスを求める
どのように断る場合でも、オファーへの感謝の気持ちを伝えることが重要です。「声をかけていただき光栄です」「自分を評価してくださったことに感謝します」といった言葉を添えることで、相手の気持ちに配慮した断り方になります。
上記の対処法は一時的な解決策ですが、現在のキャリアプランや現状への満足を理由に断るなら、本当にそう言い切れる環境で働きたいものです。
引き抜きの誘いを何度も断らなければならない状況は、エンジニアにとって大きなストレスとなります。
理想的なのは、引き抜きを意識せずとも、自社内でキャリアアップと公正な評価が得られる環境といえるでしょう。
SESの引き抜きトラブルに巻き込まれないために

SESの引き抜きに関するトラブルを未然に防ぐためには、各立場からの適切な対応が重要です。
以下はエンジニア個人ができる対策です。
- 契約内容をしっかり確認する
- 透明性を保つ
- キャリアプランを明確にする
- 引き抜き後の人間関係を考慮する
契約内容の確認と透明性のあるコミュニケーションを心がけることで、多くのトラブルを回避できます。長期的なキャリア形成の視点で判断することも大切です。
高還元SESとして知られるテクニケーションのように、エンジニアの就労環境改善に取り組むSES企業も存在します。
私たちテクニケーションは、単価開示・高還元率の実現・チーム制の導入・案件リーダーへのキャリアパス・資格取得支援など、エンジニアのキャリア形成をサポートする体制が整っています。
そのため、自社内でキャリアアップや適正な評価アップを目指したいという方には、テクニケーションがおすすめです。テクニケーションでは書類不要のカジュアル面談を実施していますので、キャリアについてお悩みの方はぜひご相談ください。